「柳生十兵衛死す」
たまには風太郎作品に対する不満点をあげてみよう。表題の「柳生十兵衛死す」についてです。山田風太郎の最後の長編小説となったこの作品は、私がリアルタイムで風太郎に接することが出来た唯一の作品でもあり、非常に感慨深いものがあるのですが、こんな設定にしてまで、柳生十兵衛を片付けなければいけない理由が果たしてあったのでしょうか? もちろん、先生が作り上げたヒーローですし、「いつか柳生十兵衛を片付ける話を書きたい」と念じておられたことも知っているのですが、例えば水戸黄門がドラマの中で死ぬ最終回を見たいですか? ブルース・ウイリスが、ジョン・マクレーンが死んでしまう「ダイ・ハード」への出演のオファーを受けるとでも?
・・・まあ、柳生十兵衛が最終的に死ぬのはよろしいでしょう。問題は、「柳生十兵衛死す」の十兵衛が、「柳生忍法帖」「魔界転生」の十兵衛とまったくの別人で、パラレルワールドの住人になってしまったことです。ここだけが本当に残念です。「柳生十兵衛死す」はひとつの独立した作品として見れば、私も好きなお話なのですが(中村橋之助が「柳生十兵衛死す」の舞台をやるというのであれば、絶対観に行きます。「柳生十兵衛死す」はテーマに能を扱っている事もあるけれど、絶対に舞台向きだと思う)、世の風太郎ファンが読みたかったのは、「柳生忍法帖」「魔界転生」の十兵衛が死ぬ話だったに違いがないのです(断言)! 「魔界転生」のラストで一人波のかなたに消えていった十兵衛が、その後風太郎世界でどんな修羅の道を歩んだのか。「柳生十兵衛死す」のラスト以外の道はなかったのか。本当に気がかりで仕方がありません。
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