西国第二番札所(忍法帖の世界⑤)~紀三井寺
紀三井寺。「魔界転生」で、柳生十兵衛一行が、和歌山城下に巡礼姿で乗り込んだ折、門前の空き地に正木坂道場出張所を開いた場所です。
【正しくは金剛宝寺といい、宝亀元年唐の為光上人の建立にかかるという。古儀真言宗に属し、西国第二番の霊場となっている。名草山という山の中腹にあり、六万余坪といわれる境内の絵馬堂からは、和歌浦の風光から淡路島まで一望のうちにおさめることができる。】
道成寺での、柳生如雲斎との一戦から、ここ紀三井寺に至るまでの経緯や、道場を開いてからのいきさつがとにかく面白く、直接転生衆と剣をもって対峙するわけではないのですが、「魔界転生」の舞台を巡る旅には欠かせない場所といえるでしょう。
桜門を抜けると、直線状の長い長い石段が(231段とか)。登らないわけにはいきません。
石段の途中に、紀三井寺の名称の元となった、三つの井戸のうちのひとつ、「清浄水」がありました。
地元の久能山東照宮の石段に比べれば、急とはいえ、まあ楽な方です(久能山は傾斜が緩やかですが、その分距離があるので)。ここは、転んだらタダでは済みそうにありませんけど・・・。
遠方から見ても目を引く仏殿がこちら。木造では日本最大の大千手十一面観音菩薩が入佛されています。今年の五月に落慶法要が営まれたばかりだそうで、つまり、十兵衛が道場の出張所を開いた寛永年間にはなかったものです。
仏殿からの眺望が素晴らしく、まだあまり寒くないので、風が気持ちよい。
海と山に挟まれた地形のせいか、地元を彷彿とさせる景色が、ときおり心を和ませてくれました。
仏殿から見た本堂の俯瞰図。紅葉の季節には早かったのが、ちょっと悔やまれました。春には早咲きの桜で有名なお寺でもあるそうです。
さて、「公議に知らせれば、江戸柳生もつぶれるぞ」という如雲斎の捨て台詞に、足止めを余儀なくされていた十兵衛も、罠と判りきったお品の提言を、あえて受け入れることにします。
【彼はただ点火を待っていただけであった。
ここで黙然と腕こまねいていられぬことは自明の理だ。事実、座り込んでいる一刻ごとに事態は悪くなっている。にもかかわらず、座り込んでいたのは、うごくにも法がないということより、例の柳生云々という如雲斎の呪文に封じられていたのだ。それをふり切るためには、十兵衛にとってやむを得ぬ時間の足ぶみであったといってよかろう。
いまや、敵の使者は来て、へたな手つきで火をつけた。
点火の上手下手は問わず、待ち受けていたもののごとく彼は燃えあがった。】
このあたりの言い回しは、さすが風太郎というか、「柳生忍法帖」において、柳生十兵衛がただ一人、敵の本拠地である鶴ヶ城に乗り込む場面を想起させ、大いなるカタルシスの爆発を予感させるのです。
【やがて、紀三井寺の石段に、深編笠の姿を現した柳生十兵衛は、腰の愛刀三池典太のつかを、かろく一つ、とんとたたくと、たたたた、と石段を風のように駆け下りていった。】
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