「神君幻法帖」
山田正紀著「神君幻法帖」読了。
鎧のように硬い肉体を持つものがいて、変装術の達人がいて、占いを得意とするものがいて、かまいたちを起こすものがいて、不死身のものがいて、相争うふたつの一族の棟梁のわざがともに瞳術(ただし、これは映画「SHINOBI」の朧の術にむしろ近いが・・・)とでもいうべきもので、さらにその二人は修羅の闘争のさなか恋に落ちて――と、これはまさに、風太郎忍法帖、とりわけ「甲賀忍法帖」以外のなにものでもありません。
巻末のインタビューでも、作者の山田正紀氏は、きっぱりと「甲賀忍法帖」へのオマージュだと言い切っています。七対七で始まるこの世のものならぬ死闘は、数ある忍法帖の例にもれず、敵味方すべてがその命を散らして、ただ無意味な寂寥感だけが残ります。
とはいえ、これは風太郎忍法帖では、当然のことながら、ないのです。
様々な幻法を操る、幻法者たちの悪夢的な戦いは、時に予想を裏切り、勝敗の帰趨を二転三転させて展開していくのですが、読みながら、山田風太郎よりも、菊地秀行氏の小説のテイストに近いものを常に感じることとなりました。菊地氏が、山田風太郎の大ファンを自認していることは、ファンなら誰もが知るところでしょうが、結局、目指すもの=模倣の行き着くところは、大体にして同じ、ということになるのでしょうか(山田正紀氏、菊地秀行氏の批判にあらず)。
いくつかある不満のうちのひとつをあげるとするなら、登場人物たちのセリフのやりとりがやけに硬く、最後までニヤリとさせられるような、印象深い言葉が出てこなかったことです(本家の忍法帖であれば、どの作品にだって、名セリフ・名調子がいくつかはあるのですが)。
それでも、山田正紀氏なりの幻法の解説や、「甲賀忍法帖」とは違う結末、ラストの天海僧正に対しての皮肉など、興味深い部分も随所にあり、”21世紀の忍法帖”を、私は、大いに楽しむことができたのでした。
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