「風来忍法帖」
山田風太郎ベストコレクションにて「風来忍法帖」再読。初読は富士見文庫版だったので、通して読んだのはかれこれ20年振りくらいになります。
改めて気付いたのですが、物語の骨格は「忍法八犬伝」と同様なるも、読後感の余韻が爽やかなの(お決まりの全滅エンドとはいえ)は、明らかに「風来忍法帖」のほうで、それは双方のヒロインのキャラクター付けによるものが大きいと私は考えます。
なんといったって、「風来忍法帖」の麻也姫は忍法帖随一のスーパーヒロインなのです。
萌えどころも様々で、序盤、悪源太の顔をわらじで踏みつけ、
「畜類のような奴らゆえ、人間の心はもつまいが、人のかたちをした者には、たとえ女なりとも人の魂があると知れ」
と冷然と言い放ったかと思えば、恐るべき忍法の使い手たる3人の風摩組に昂然と平手打ちを喰らわせた後、両手で顔をおさえ、ああん、ああん、と童女のようなあけっぱなしのくやし泣きをみせる可憐さに、香具師ならずとも心が動かされるのは当然の成り行きといえましょう――ここらあたり、「のぼうの城」における成田長親に見せる領民の親心に通じるものがあると思うのですが。
また、ラスト近くで源太の傷ついた掌をまるでそうすることが自然であるように、【じぶんのふたつのふともものあいだに、ピッタリとはさんだ】りし、片野の祖父太田三楽斎の居館で、源太と「お祖父さまとひっそりとしずかに暮らそうね」という台詞には、もう、どんな言葉も色を失い影を潜めるしかなくなるのです。
作品の質や迫力は「魔界転生」が格上といわざるをえないでしょうが、いわゆるエンターテイメントの見本として、「風来忍法帖」は私のもっとも大好きな作品のひとつとなっています。
ホント、ラストは何回読んでも涙腺がゆるむと思います。
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